○年○月○日

詩の効用

 まじめな会で挨拶をしなければならない時に、はじめに一寸、俳句や短歌を入れたりすると印象に残るし、カッコが良いと思われることもある。

 卒業式の式辞の頭に郷土の偉人、永田秀次郎の俳句「ふるさとの細き流れやねこ柳」を入れて、早春の風情を出すように工夫したことがあった。たまたま卒業式であったので来賓もあり、聞いた人も多かったのであろうか、永田秀次郎の孫にあたる現在の県会議員、秀一さんが、

「卒業式におじいさんの俳句を取上げてくれてありがとう」と、わざわざお礼の言葉をかけてくれた。地元の人ならみんな知っている名句であるが、それを聞かせる機会はあまりないので良かったのだろうか。別に演出効果を狙ったのでもない。

 次の年の式辞には、あまり同じ俳句もつかえないので、子供の教科書から「山路きてなにやらゆかしすみれ草」を引用した。もちろん何の反応もなかった。

 ある会の挨拶で、今日のように寒い日であったので「寒いねと話しかければ 寒いねと答える人のいるあたたかさ」という短歌を俵万智の「サラダ記念日」から引用した。この会に参加していたある中学校長から電話がかかってきた。

「先だっての会では色々どうも・・・・」と一通りのお礼があって、

「実は、先生に聞いたあの短歌を、朝会の時に生徒に話をしたんですわ」

「ふんふん、そりゃ子供にもよく分かる短歌でよろしいなぁ」と相槌を打つ。

「ええ、それが昨日の私立高校の入学試験問題に出ましてなぁ。なんでも、短歌の最後の五文字に適当な言葉を選べという問題でして」

「そりゃまた奇遇でしたな、別に試験問題作成者でもないんですがね」と私。

「いやぁ、それでとに角、内の受験生はそこの「あたたかさ」のところは全員正答が出来まして、みんな国語で10点ずつ儲けたんですわ、校長先生の朝会の話しがそのまま出たといって大喜びでして、それで先生にまずお礼をと・・」校長さんの声は弾んでいた。

 厳しい受験戦争の中で、1点でも良い点を取らせたい、1人でも多く合格させたいと頭を悩ましている校長さんにとってはよほど嬉しかったに違いない。

「それは校長さんの指導の賜物ですわ」と称えながら、妙なところで挨拶の効用があるものだと内心ほくそえんだ。

 この冬一番の寒波襲来、大雪警報が出た。そんな中で心あたたまる歌の一つも出来ないものだろうか。

今日の川柳

  雪の日にお前を産んだと言った母

 風花はこんな雪だと手でつつみ

        外は雪むかしばなしができる夜  高田いろは